クロスバイク
 
 老年期の金のかからない、個人的なスポーツと言うと、金持ちでない限りは、ゴルフやスポーツクラブなどは論外であるから、家での柔軟体操のようなことをのぞけば、ウォーキングやハイキングやサイクリングなどが、健康維持のための、戸外での身体の運動ということになろう。
 この戸外での三大運動のうち、一番行動範囲の広く、融通の利くのはサイクリングである。しかし体力の衰えにつれて、長年乗りなれたシティサイクル(ママチャリ)が、やけに重く感じられてくる。颯爽と疾駆っているスポーツ自転車に追い越されながら、のんびりとはしるのも悪くはないのだが、体力的に長く乗れず、到達距離がどんどん短くなっていくのが困りものである。そこで、思い切って、スポーツ自転車に挑戦してみることにする。
 それにはまず、スポーツ自転車がどんなものか、良く知らねばならない。三種類ある。ロードバイクとマウンテンバイクとクロスバイクである。キノコのようなヘルメットをかぶり、サイクルスーツを着て、車と同様に奔るロードバイクは、まず敬遠して、マウンテンかクロスに絞る。マウンテンバイクは、子供の自転車によく見かける、広いタイヤなので、安定した乗りこごちのようである。しかも河原や悪路を走れるので、も少し若ければ、それにしたであろう。いまさらラフな乗り方は考えていないので、クロスバイクに落ち着いた。クロスというのは、スポーツバイクとママチャリの中間の意味らしい。
 さて、実際に乗ってみて、クロスバイクは一般のシティサイクルとはまるで違う、乗り方と乗りこごちであることがわかった。まず軽いのだ。ママチャリは20キロ近くあるが、その半分程の11キロである。このことが、クロスバイクが、思わぬ危険を招く乗り物であることにつながっている。ママチャリに乗りなれているからといって、油断することは禁物である。乗り慣れるまでには、充分な練習と慎重さが必要である。とりわけ、高齢にして初めて挑戦する人にはである。そこで注意すべきことを、項目にしてまとめてみる。

1.右(前輪)ブレーキは厳禁。ママチャリでもそうだが、スピードを出しているところで、前ブレーキだけをかけると、激しくつんのめる。重量の軽いクロスバイクでは、たちまち路面に叩きつけられることになる。大怪我をするか、場合によっては死亡しかねない。右(前輪)ブレーキは用心して、まず使わないのがよい。普段は左(後輪)ブレーキだけを使うこと。やむをえず右ブレーキを使う時は、左ー右の順、または同時に使う。筆者は右ブレーキのシュウを少しずらして、効きを悪くしている。
2.上のことに関連して、高齢者であるからには、スピードを出しすぎないこと(特に坂道で)。動体視力の衰え、反射神経の衰えなど、全体に敏捷さが鈍っているのであるから、それに見合ったスピードで奔ること。6段あるギアチェンジは、1から2、せいぜい3までで充分なのである。脚の回転数を変えなければ、2で充分なスピードが出せる。
3.クロスバイクでは前傾姿勢になる。脚と尻と両腕の三点で、重心を分かつことになるので、全身の運動になる。最初はふらふらしても、慣れてくると、ママチャリよりも真直ぐはしれる。すぐ尻が痛くなるので、厚地のサドル・カヴァーをするとよい。
4.出る前には綿密に地図を調べ、なるべく車と一緒にはしらずにすむ道を選ぶ。裏道に精通しておくとよい。大きな道路は、歩道をはしれる道だけにする。とにかく、スポーツ自転車とはいえ、のんびりはしることを心がける。
5.出る前の、車体の点検。特にタイヤの空気は、ママチャリ以上に一杯に入れておく。フレンチ式のバルブなので、手順が面倒である。
6.乗るときは片脚を後ろからまわす。止まる時や降りるときは、いったんサドルの前に尻を移動する。乗ったままで足が地面につけばよいが、前に尻をずらせて両足で立つと安定する。
7.出る前には、充分に全身の柔軟体操をしておく。特に、脚の跳ね上げ運動をしておく。
8.スポーツ自転車ではあるが、高齢者には長距離はひかえるべきであろう。疲労がすぎると危険であるから、片道10キロ程度がよいであろう。それ以上の距離は、駅の駐輪場において鉄道を使えばよい。ウォーキングやハイキングの途中のつなぎとして、料金の節約にもなる。

 以上、老婆心からいろいろ書いてみたが、高齢者であるからといって、スポーツ自転車が一概に危険だというわけではない。要は、危険を心得たうえで、慎重な乗り方をすればよいのである。自動車以上に注意力を養うことにもなり、認知症なども恐れるに足らないであろう。ただし、身心の不調な時には、どんなスポーツも同様であるが、無理をしないことである。

 コピー ~ umidi21.12 025
 
 (次回は近隣のサイクリングコース紹介の予定)